あらすじ
帰って来ない母を待ち、〈とわ〉は一人で生き延びる。光に守られて、前を向く。暗い淵のなかに身を沈めて仰ぎ見る、透き通った光。「生きているって、すごいことなんだねぇ」。歌う鳥たち。草木の香り、庭に降りそそぐ陽射し。虹のように現れる、ささやかな七色の喜び。ちっぽけな私にも、未来、はあるのだ。読み終えると、あたたかな空気が流れます。本屋大賞第2位『ライオンのおやつ』に続く、待望の長編小説。
ISBN: 9784103311935ASIN: 4103311932
作品考察・見どころ
小川糸氏の真骨頂は、残酷な現実を慈悲深い眼差しで包み込み、読者の魂を浄化する圧倒的な描写力にあります。本作の核は、孤独という深い淵に沈んだ主人公が、五感を通じて見出す生命の輝きそのものです。匂いや音、光の揺らぎといった断片的な感覚が、閉ざされた世界を豊かな小宇宙へと変容させていく過程は、まさに言葉で紡がれる奇跡と言えるでしょう。 絶望の淵にあっても「生きている」ことの尊さを謳歌する強さは、読者に静かな勇気を与えてくれます。暗闇を知るからこそ際立つ光の鮮烈さ、そして他者への純粋な信頼が、物語の終盤にかけて大きな感動へと昇華されます。緻密に計算された文体で描かれるこの再生の物語は、心の庭にいつまでも消えない温かな灯をともしてくれるはずです。