伊坂幸太郎の十五年に及ぶ思考の断片が結晶化した本作は、彼の小説世界を司る美学の設計図に他なりません。苦手と公言するエッセイだからこそ滲み出る飾らない言葉には、不条理な世界を軽やかに生き抜くための哲学が、まるで魔法のような文体で刻まれています。
映像化によって本作の軽妙な語り口はより立体的な色彩を得ましたが、活字ならではの重層的な思索の深みは唯一無二です。映像が提示する躍動感と、本書に漂う思索の余白。両者を往復することで、我々は伊坂ワールドという広大なパズルの、最後の一片を手に入れる悦びに浸れるのです。