乃南アサが描くのは、家族という名の密室に潜む剥き出しの人間心理です。本作の真髄は、事件解決の快感よりも、他者の心の深淵に触れる際の痛みと救いを見事に掬い上げている点にあります。家裁調査官・庵原かのんの眼差しを通じて、読者は「嘘」の裏側に隠された、あまりにも切実で孤独な真実を突きつけられることになるでしょう。
著者の筆致は、街の湿り気や人々の吐息さえ感じさせるほど繊細で、法律だけでは割り切れない家庭の機微を鮮烈に描き出します。絶望の先に、なお微かな希望を信じようとするその執念が、読後の魂に深い余韻をもたらします。人間の業と愛の両面を極限まで突き詰めた、慈悲深くも鋭利な文学的傑作です。