さの隆が描き切ったのは、善悪の境界が溶解する瞬間の震えです。本作はサスペンスの枠を超え、愛という名の狂気がいかに人間を獣へ変貌させるか、その残酷な因果律をえぐり出しています。伏線が収束する最終巻では、救済と絶望が表裏一体であることを突きつけ、読者の倫理観を激しく揺さぶります。
文字から情念が滴るような筆致は、紙媒体ならではの没入感を生んでいます。主人公の苦悶に満ちた選択は、読み手自身の内にある獣を呼び覚ます鏡のようです。凄惨な悲劇にして究極の人間賛歌である本作は、読後も消えない重い余韻を刻みつける、まさに魂を削る一冊です。