本作は単なるパニック小説の枠を超え、高度経済成長に沸く日本の「歪み」を鋭く照射する社会派群像劇です。疾走する新幹線は繁栄の象徴であると同時に、一度走り出せば止まることの許されない現代社会のメタファーでもあります。犯人の絶望や組織の論理に抗う者たちの葛藤が、緻密なサスペンスの中に重厚な人間ドラマとして結晶しています。
映像版の手に汗握る速度感に対し、本書は人物の深淵な内面描写に踏み込める点が魅力です。映画で高倉健が体現した無言の苦渋を、テキストならではの解像度で補完し、極限状態での「生への執着」を鮮烈に描き出しています。銀幕の興奮を血肉化し、文字から伝わる静かな熱狂が読者の五感を激しく揺さぶる一冊です。