あらすじ
本書は、アーティストの思考様式を企業活動に取り入れることによりイノベーションを引き起こすことができることを述べ、それを「アート思考」「アートイノベーション」と呼ぶとともに、アート思考の具体的な方法論を示そうとしたものです。 アート思考に対して、デザイナーの考え方をビジネスに持ち込む「デザイン思考」は、企業で商品やサービスの改善などのために必要であるとして普及しつつある考え方です。それに対してこの本では、現在のコロナウィルスの拡散などにより未来が不透明な21世紀には、デザイン思考では不十分でそれを超えたアート思考が不可欠であるということを述べ、その具体的な方法論を説明します。 本書はハウツー本ではありません。ハウツー本の多くの内容は、すぐに忘れてしまいやすいものです。それは、そこに書いてあることと読者が本当にやりたいこと、このような生き方をしたいと考えていることが乖離しているからだと考えられます。ビジネスの世界で成功することと人間らしく生きることは別であると、ハウツー本は主張しているようです。 それに対し本書では、企業は生き物でありその意味で人と同じであるという考え方に立っています。AIが人を不要にするとまで言われる21世紀を人としてどう生き抜くかという問題と、市場が大きく変化し明日が読めない時代に企業がどう生き抜くかは、実は同じ問題なのです。そのような状況のもとで生き抜くためには、人や企業にアート思考が必要であるという考え方の元に、本書は書かれています。 本書は、3人の異なる立場の著者の共著という形で書かれています。著者の一人である土佐は、メディアアート制作を中心にアート活動を行っているアーティスト兼大学教授で、アート思考を自らの生き方としてきており、それをアーティストの立場から説明するのに適しています。また、アートビジネスにイノベーションを引き起こすものにすべく、企業との共同研究にも熱心です。もう一人の著者である中津は、コミュニケーションの技術者・研究者として、土佐と長年共同活動を行ってきて、テクノロジーの立場からアート思考の重要性を理解しています。また、コミュニケーション関係の研究所でアーティストと技術者の共同研究プロジェクトを牽引し成功に導いた経験を有しており、アート思考をビジネスに持ち込む際のマネジメント方法に経験と実績を有しています。3人目の著者である巽は、凸版印刷株式会社において、企業が21世紀を生き延びるための人材を育成する立場の人間です。アート思考を企業に取り入れるという土佐・中津の考え方に賛同し、実際に凸版印刷の社内での人財育成にアート思考の考え方を取り入れています。 このように、本書は3人の異なった立場の著者の共著により、アート思考の方法論だけではなく、それが必要とされる背景、アート思考に基づいた著者のそれぞれの立場からの経験、さらには著者が共同して行なっている企業へのアート思考の導入の試みという現在進行形のプロジェクトについて記述したものです。