五木寛之が描くサスペンスの本質は、都市の孤独と土着的情念の交錯にあります。高度経済成長の影で置き去りにされた近代化の歪みを、洗練された叙情と不条理な恐怖で包み込む筆致は圧巻です。各編に底流するのは抗いがたい運命に翻弄される人間の悲劇であり、謎解きを超えた魂の救済を求める文学的深淵が読者の胸を激しく打ちます。
映像化された陽ノ影村の一族では、文字の心理描写と映像の視覚的恐怖が鮮烈な相乗効果を生んでいます。行間に潜む血の呪縛が映像の生々しさで補完され、より根源的な恐怖へと昇華されました。桐野夏生との対談も含め、人間の深淵を愛惜の念で照らし出す、極上のエンタテインメントです。