東野圭吾が描く本作の真髄は、コロナ禍の閉塞感を背景に、マジックの手法で嘘を暴く新たなヒーロー、神尾武史の造形にあります。正義感よりも冷徹な洞察力を武器にする武史は、従来の探偵像を覆すほど挑発的です。彼は手品師のように人間の虚飾を剥ぎ取り、真実を鮮やかに演出して見せます。その不敵な言動が、閉ざされた町に溜まった澱みを一気に吹き飛ばす快感は格別です。
単なる謎解きを超え、人間の業を浮き彫りにする筆致は圧巻です。同級生たちの内に潜む影を、奇術師のロジックで白日の下にさらすプロセスには、東野ミステリーの成熟した凄みが凝縮されています。読者はページを捲るごとに、著者が仕掛けた壮大で美しい罠に自ら進んで堕ちていくような高揚感を味わうことになるでしょう。