あらすじ
あの日、風が吹かなければ、私は生まれてこなかったーー。藤下歩実は母の奈津実とともに遺影専門の写真館・鏡影館を訪れた。病を抱えた母の撮影のために。そこに飾られた一枚の写真を目にして、母はひどく動揺した様子を見せる。小学五年生の男子二人組、入院中の高齢女性。川沿いの町に暮らす人々が発した幾重もの噓が、思いもよらぬ場所へと流れ込み……。奇跡の本当の意味を知るミステリ。
ISBN: 9784101355580ASIN: 4101355584
作品考察・見どころ
道尾秀介という作家は、常に「嘘」の裏側に潜む真実を、魔術師のような筆致で描き出します。本作は、些細な悪意や祈りが風となって連鎖し、数十年という時を経て劇的な奇跡へと昇華される傑作です。偶然という名の必然が織りなす極上のパズルは、読者の予想を鮮やかに裏切り続け、最後には魂を震わせる圧倒的なカタルシスを約束します。 遺影写真館という死の香りが漂う場所から、生の瑞々しい輝きを見出す文学的アプローチは実に見事です。登場人物たちが吐く嘘は、誰かを守るための盾であり、同時に運命を狂わせる毒でもあります。それらが一本の線に繋がったとき、私たちは自身の存在そのものが無数の奇跡の集積であることを痛感するでしょう。これは、ミステリの枠を超えた「魂の救済」の物語なのです。