あらすじ
異様な熱狂が、世界を包み込む。 緊急事態宣言下で仕事を失った佐野勇志は、なけなしの金も寸尺詐欺にあい絶望の淵にあった。三枝美来は金を貸したきり連絡を絶ったライブ仲間・ルカに苛立ちを募らせる。コロナ禍で身動きもままならない彼らがネットで出会ったのが、〈Q〉のミュージックビデオだ。謎めいた魅力に心酔した人々は〈アンサーズ〉というグループを組織し始める。 キュウを〈Q〉と名付け売り出したのは、彼に惚れ込んだ百瀬だった。閉塞する世界を覚醒させるカリスマとすべくロクや健幹が彼を支える。Qの常識を超えた映像表現は、SNSを通じ世界に拡散。そしてかつてない大規模ゲリラライブの企画が始動した。だが機を同じくしてQへの殺害予告が届く。 キュウと決別したハチは清掃員の静かな生活に戻っていた。そこへアンサーズのメンバーが現れる。キュウの過去についての不穏な噂、さらに殺害予告を知ったハチは、葛藤を抱きながらもゲリラライブ――「暗夜行路」を目指しアウディを走らせるのだった。 全世界を熱狂させるカリスマ、それを利用する政治家、子らを支配する父、ただキュウを愛する人々。さまざまな思惑が渦巻き、物語はクライマックスを迎える。 ※この作品は過去に単行本として配信されていた『Q』 の文庫版となります。
作品考察・見どころ
呉勝浩が描く世界は、常に剥き出しの熱量を帯びています。本作では、偶像としてのQを巡り、狂乱する群衆と個人の孤独が激しく衝突します。情報の渦中で神に祭り上げられた存在の脆さと、それを消費し尽くそうとする現代社会の残酷な本質を、著者は暴力的なまでの筆致で抉り出しています。 特筆すべきは、疾走するアウディの中で研ぎ澄まされていくハチの純粋な情熱です。加速する物語は単なるエンターテインメントを超え、真実を見失った世界で何かを信じ抜く気高さを問う、哲学的な境地へと読者を誘います。魂を射抜かれるような、鮮烈な読書体験がここにあります。