あらすじ
あの子の輝きに、生かされている
千葉県富津市の清掃会社に勤めるハチこと町谷亜八は、過去に傷害事件を起こし執行猶予中の身。ようやく手に入れた「まっとうな暮らし」からはみ出さぬよう日々を生きている。唯一の愉しみは祖父の遺したアウディでアクアラインを走ることだった。ある日、血の繋がらない姉・ロクから数年ぶりに連絡が入る。二人の弟、キュウを脅す人物が現れたという。
キュウにはダンスの天賦の才があった。彼の未来を守るため、ハチとロクは、かつてある罪を犯していた。折しも華々しいデビューを飾りキュウは急速に注目を集め始めたところである。事件が明るみに出ればスキャンダルは避けられない。弟のため、ハチは平穏な日々から一歩を踏み出すことを決意するのだが……。
一方、ロクの同棲相手である本庄健幹は彼女の行動に違和感を覚えだす。言いようのない不安を解消するため、健幹はロクの故郷・富津に向かった。あてもなく情報を探るうち、首に刺青を入れた男と出会う。彼もまた、町谷の家を探していた。
抗えない圧倒的な〈現実〉、そして守るべき日常。そのなかでそれぞれの愛を貫こうとする人々。コロナ禍の日本を舞台に突如現われたカリスマをめぐる、最高速度の物語。
【編集担当からのおすすめ情報】
「コスパとかタイパとかいうケチ臭い概念を踏み付けてくる、圧倒的なエンターテインメント」-- 一穂ミチ氏
映画化もされた『爆弾』など、話題作を手がける呉勝浩さん。その作品のなかでも最大ボリューム、最大スケールの本作がついに文庫化。コロナ禍以降変容し続け、不穏さを増す社会に警鐘を鳴らす注目作です!
作品考察・見どころ
呉勝浩が描く世界には、常に剥き出しの生が脈打っています。本作もまた、社会の境界線上で喘ぐ人々の魂を、冷徹かつ情熱的な筆致で抉り出しています。血縁を超えた絆を守るために平穏を捨てる主人公の決断は、法や倫理を超越した聖域の美しさを放ち、読む者の倫理観を激しく揺さぶります。 物語の核となるのは、脆さと強さが同居する人間像の深掘りです。暴力の連鎖に抗いながら、大切な存在を救うことが、同時に自分を赦すことへと繋がる過程は、一級のノワール文学としての風格を漂わせています。上巻から加速する圧倒的な熱量に、ページを捲る手は決して止まらないはずです。