直木賞作家・今村翔吾という稀代の語り部が、自らの血肉となった記憶を紐解く本作は、単なる回顧録を越えた「物語の原典」としての輝きを放っています。少年時代の焦燥や作家を志した瞬間の高鳴りが、熱量を孕んだ文体で綴られており、彼の壮大な歴史小説に脈打つダイナミズムの源泉がどこにあるのかを鮮烈に提示しています。
一編のエッセイが放つ情緒は、静謐な湖面に映る空のように読者の心へ深く浸透します。虚構を構築するプロが「生身の言葉」で綴るからこそ見える、創作への執念と人間への慈しみ。言葉の力を信じ抜く著者の魂に触れる時、私たちは一冊の本が人生を変える瞬間に立ち会う興奮を覚えるはずです。