眉月じゅんが描く本作の真髄は、ノスタルジーとSFが交錯する中で「私とは何か」を問う点にあります。第7巻では、自らを偽物と断じる鯨井の悲痛な揺らぎと、それを強引に繋ぎ止める工藤の渇望が、九龍特有の湿り気を帯びた空気感と共に濃密に描き出されています。
実在と記憶の境界が崩壊していく中で、それでも互いを求め合う二人の姿は、単なるロマンスを超えた魂の救済の物語です。言葉にならない視線の交錯が、読者の深層心理に美しくも不穏な叙情を突きつけます。この迷宮のような恋の果てに何が待つのか、一ページを捲るごとに息を呑むような感動が押し寄せます。