眉月じゅんが描く本作は、ノスタルジーという甘美な毒をSF的な精緻さで解体する野心作です。第6巻では「本物」と「複製」の境界線がいよいよ曖昧になり、読者をアイデンティティの迷宮へと誘います。高密度の九龍の描写は、登場人物の湿った情熱を代弁する生命体のごとき輝きを放ち、その圧倒的な筆致に息を呑みます。
物語の核にあるのは、記憶と恋心の残酷なまでの純粋さです。自分が何者かという根源的な問いを日常の細部に宿らせる手腕は、文芸的と呼ぶに相応しい深みを持っています。人間という存在の不確かさと美しさを鋭く突きつける本作は、ページをめくるたびに読者の魂を激しく揺さぶり続けるはずです。