吉田修一という稀代の物語作家が、激動の時代を見つめる眼差しは、どこまでも澄み渡り、かつ痛烈なまでの誠実さに満ちています。本作は単なる日常の記録ではなく、虚構と現実の境界で揺れ動く人間の本質を、彼独自の詩的な筆致で鮮やかに切り取った、真に美しい文学的航海図といえるでしょう。
変化し続ける世界の中で、私たちは何を失い、何を手にしたのか。その答えを、著者は自らの原風景を辿りながら静かに提示します。日常に潜む微かな「光」を掬い上げる言葉の数々は、読む者の魂を温かく震わせ、ふたたび外の世界へと踏み出す勇気を与えてくれるはずです。