あらすじ
ISBN: 9784041162002ASIN: 4041162009
2008年。東京で働く貴樹は、人と深く関わらず、閉じた日々を送っていた。30歳を前にして、貴樹は自分の一部が、遠い時間に取り残されたままだと気づきはじめる。そんな時にふと胸に浮かぶのは、色褪せない風景と、小学生の頃に出会い、心を通わせた明里との約束の日の予感だったーー。18年という時を、異なる速さで歩んだ二人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。脚本家が自ら執筆した、劇場用実写映画の小説版!
本作は、物理的な距離以上に残酷な心の乖離を、新海監督自らが美しく言語化した傑作です。映像で背景美として描かれた雪や桜が、小説では主人公・貴樹の孤独や、言葉にできなかった慟哭として刻まれています。初恋という聖域に魂を囚われたまま大人になった者の空虚さを、これほど切実かつ高潔に描き切った文学は他にありません。 映像作品が情緒的な旋律と色彩で余韻を残すのに対し、小説は内面描写によって物語を多層的な構造へと深化させています。映像が一瞬の光を捉えるなら、文字は永遠に続く痛みを克明に写し出します。両メディアを往復することで、かつて誰かを強く想った人々の心に、本作は一生消えない鮮烈な感動と救いをもたらすでしょう。

現代アニメーション界において、光と空の詩人と称され、観客の心の最も繊細な場所を揺さぶり続ける稀代の映像作家、それが新海誠です。日本ファルコムでのゲームクリエイター経験を糧に、1999年の短編「彼女と彼女の猫」で産声を上げたそのキャリアは、既存のスタジオシステムに依存しない個の力による静かなる革命でした。一人で作り上げた「ほしのこえ」での衝撃的なプロデビューを経て、彼はコミックス・ウェーブ・フィルムとの歩みの中で、緻密な風景描写と喪失感を抱えた男女の心理を鮮やかに重ね合わせる独自の美学を確立します。叙情的な連作「秒速5センチメートル」や、雨の情景が息を呑むほどに美しい「言の葉の庭」を経て、2016年の「君の名は。」では世界的な社会現象を巻き起こし、日本アニメーションを新たな次元へと押し上げました。これまで25作品に携わり、平均評価7.1という極めて高い水準を維持し続けている事実は、彼が単なるヒットメーカーではなく、一貫して「心の距離」という普遍的なテーマを研ぎ澄ませてきた証左と言えるでしょう。アニメ、ドラマ、ロマンスという得意領域において、彼が描く空の色や降り注ぐ光は、もはや一つの言語として機能しています。「天気の子」や「すずめの戸締まり」で見せた、自然の脅威と個人の願いを衝突させる壮大な物語は、混迷する現代社会において、私たちが失いかけた純粋な祈りを代弁しています。圧倒的な映像美と魂を震わせる叙情性の融合こそが彼の真骨頂であり、これからも世界中をその鮮烈な色彩で染め上げていくに違いありません。
実写化・アニメ化された映画やドラマを観て、原作小説ならではの美しい心理描写や、映像化で新たに加えられた解釈・演出との違いを楽しみましょう。