本作は、滅びゆく文明と聖職者たちが織りなす荘厳なバロック・ファンタジーの頂点と言えます。九条キヨ氏の圧倒的な画力が、亡き吉田直氏の遺した重厚な世界観に血肉を与え、単なるエンターテインメントを超えた「祈り」の物語へと昇華させています。特に茨の宝冠編のクライマックスで見せる、運命に抗う者たちの激突は、高潔さと残酷さが同居する美学の極致であり、読者の魂を激しく揺さぶらずにはおきません。
エステルとメアリ、対極の正義を掲げる二人の対峙は、統治者の孤独と慈愛の本質を厳しく問いかけます。美しい装飾の裏に隠された、剥き出しの生への執着と犠牲。文字と絵画が見事に調和した紙上の舞台において、血塗られた歴史を乗り越えようとする彼女たちの叫びは、救済という名の痛みを伴いながら、読む者の心に深い爪痕を残すことでしょう。