村松友視は、虚飾を剥ぎ取った先に現れる「生身の人間」を描く名手です。本作は、帝王・石原裕次郎という太陽を、妻・まき子という羅針盤を通して炙り出す肖像文学。栄光の裏で傷つき、それでも冒険心を捨てなかった孤独な魂の震えが、著者の端正な筆致によって鮮烈に結晶化されています。
物語の本質は、夫婦が運命共同体として荒波を越えていく精神の軌跡にあります。英雄の神話を解体し、苦悩する「個人」の真実へと迫る本作は、単なる回想を超えた凄絶なドラマ。まき子夫人の愛の光に導かれ、読者はかつてない石原裕次郎の深淵に触れることになるでしょう。