伝説の裏に隠された一匹の犬の生の震えを、鮮烈に描き出した傑作です。綾野まさる氏は、美談として形骸化しがちなハチ公の物語を、慈しみ深い視点で再構築しました。駅で待ち続けた十年という歳月が、単なる忍耐ではなく、愛する者との魂の交流であったことを、読者の心に情熱的に訴えかけます。
本書の真骨頂は、銅像という記号にされたハチを、血の通った一頭の命として奪還した点にあります。児童書という枠を超え、生と死、そして愛の本質を問い直す筆致は実に見事です。ハチの瞳が見つめていた景色を追体験する時、私たちは真の誠実さとは何かを、魂の奥底で実感するはずです。