本書は、物理的な天体としての月を、日本文学というレンズを通して「心象の風景」へと昇華させた珠玉の論考です。萩原朔太郎や松尾芭蕉が月景に託した孤独や情念を、著者は自らの身体的感覚と響き合わせることで、読者の視界にある月を全く新しい神秘的な色合いへと塗り替えてしまいます。
月が刻むリズムが、私たちの内なる情動とどう共鳴してきたのか。神話から現代文学までを縦横無尽に駆け抜ける筆致は、月光のように鋭く、かつ慈愛に満ちています。ページを閉じた後、誰もが夜空を見上げずにはいられない。理屈を超えた根源的な憧憬を呼び覚ます、至高の文芸体験がここにはあります。