本作は、孤独を抱えながらも気高く生きる男女の、数十年にも及ぶ静謐な情愛を描いた傑作です。最大の見どころは、言葉にできない感情を「沈黙」や「視線」に託した、極限まで削ぎ落とされた文体と構成にあります。過ぎ去った歳月の重みが一行一行に刻み込まれており、読者はページを捲るたび、秘められた恋の激しさと切なさに胸を突かれることでしょう。
映像版で田中裕子と岸部一徳が体現した抑制された演技は、このシナリオブックという言葉の骨組みがあってこそ輝きました。ト書きに込められた繊細な情景描写を文字で辿ることで、映像では一瞬で流れてしまう感情の機微を深く、永く反芻できるのが本書の醍醐味です。行間から溢れ出す情緒が、映像体験にさらなる深みと奥行きを与える稀有な一冊と言えます。