田中芳樹氏の真骨頂たる「知略による逆転劇」が、七世紀の天竺を舞台に鮮烈に描かれます。主人公・王玄策は、単なる武人ではなく意志と外交術で異国の軍勢を動かす文官であり、その静かなる憤怒が巨大な歴史を動かしていくカタルシスこそが本作の核心です。合理的精神が混沌を凌駕していく様は、不条理な現代を生きる我々の魂をも激しく揺さぶります。
伊藤勢氏の筆致は、紙幅を超えた異国情緒と暴力的な熱量を圧倒的な密度で可視化しました。緻密な象軍の威容や血肉の躍動を感じさせる戦場の描写は、読者を一気に七世紀の熱風の中へと引きずり込みます。知性と野性が高次元で融合したこの劇画的昇華こそ、物語を体験する悦びに満ちた、本シリーズの真の醍醐味と言えるでしょう。