峻烈な言葉で知られる詩人・茨木のり子の「個」としての背骨は、日々の献立という極めて個人的な営みに支えられていました。本書は単なるレシピ集ではなく、生活を疎かにせず、一皿に知性と誠実さを注ぎ込んだ彼女の美学の結晶です。台所の実測図や日記からは、自立した精神を保ちつつ、食卓を慈しみ抜いた一人の女性の瑞々しい呼吸が聞こえてきます。
彼女の詩が放つ強靭な精神性は、手間を惜しまない「台所仕事」という土壌から芽吹いたのでしょう。暮らしを自らの手で律する厳格さと豊かさが同居する本書は、読む者に「生きる喜び」の本質を問い直させます。言葉を編むことと献立を考えることが直結しているという発見は、私たちの日常をも崇高な文学へと変容させてくれるに違いありません。