あらすじ
伊藤に長い間片思いするが、粗末に扱われ続けるデパート勤務の美人。伊藤からストーカーまがいの好意を持たれる、バイトに身の入らないフリーター。伊藤の童貞を奪う、男を切らしたことのないデパ地下ケーキ店の副店長。処女は重いと伊藤にふられ、自暴自棄になって初体験を済ませようとする大学職員。伊藤が熱心に通いつめる勉強会を開く、すでに売れなくなった33歳の脚本家。こんな男のどこがいいのか。5人の女性を振り回す、伊藤誠二郎。顔はいいが、自意識過剰、無神経すぎる男に彼女たちが抱いてしまう恋心、苛立ち、嫉妬、執着、優越感。ほろ苦く痛がゆい著者会心の成長小説。
ISBN: 9784344024588ASIN: 4344024583
映画・ドラマ版との違い・考察
本作は、無神経な自意識の塊である「伊藤」を軸に、女性たちの醜くも愛おしいエゴを鮮烈に暴き出す傑作です。柚木麻子が描くのは、単なる恋愛劇ではなく、他者を通じて己の空虚さと向き合う現代人の業そのもの。ページを捲るたびに剥がれ落ちる彼女たちの虚飾と、毒を孕んだ心理描写の鋭さに、読者は鏡を見せられたような痛痒い快感を覚えるはずです。 実写版では伊藤の存在が具体性を帯びて物語の滑稽さを際立たせますが、原作はテキストならではの五感を刺激する比喩や、内面の淀みがより克明です。映像で補完された視覚的インパクトと、文字でしか味わえない底冷えする没入感。両者を往復することで、心の奥底に潜む毒を浄化する最高のエンターテインメントが完成します。