桜木紫乃が描く本作は、血の通った「業」の物語です。昭和の銀行強盗事件を背景に、犯人を単なる狂人と片付けない著者の筆致に圧倒されます。母性と女性、そして個人の矜持がせめぎ合う中、異常とされる存在の裏側に潜む「あまりにも人間的な孤独」を炙り出す手腕は、文芸の真骨頂と言えるでしょう。
視点人物たちが手繰る記憶は、加害者の肖像を多層的な真実へと昇華させます。母子の絆という聖域を解体し、残酷な愛の形を突きつける本作は、読者の倫理観を激しく揺さぶります。頁を捲るごとに、彼の背負った闇が鏡のように迫り、魂が震えるような衝撃を禁じ得ない、唯一無二の長篇です。