村田沙耶香が描くのは、愛や家族という共同幻想を根底から覆す、潔癖で残酷な新世界です。性愛を野蛮な行為として排除し、人工授精が常識となった社会。そこにあるのは、本能を奪われた人間が辿り着く無菌状態への違和感と、それでも消えない個の叫びです。著者の冷徹かつ詩的な筆致は、読者の倫理観を激しく揺さぶり、心地よい目眩を誘います。
本作の真髄は、狂気すらもシステム化された世界の構築美にあります。常識を解体し再構築することで浮き彫りになる、人間とは何かという根源的な問い。日常を異界へ変える圧倒的想像力は、現代文学の到達点です。ページをめくるたび自らの境界が溶けるような、至高の読書体験を約束する衝撃作です。