青山七恵氏が描くこの短編集は、日常という凪いだ水面に投げ込まれた小さな石が、静かに波紋を広げていくような、繊細で緊張感に満ちた傑作です。他者への一方的な親愛や、ふとした瞬間に生じる決定的なズレ。言葉にならない微かな心の揺らぎを、著者特有の透き通るような筆致で鮮烈に掬いあげる手腕には、ただ圧倒されるばかりです。
特筆すべきは、人物たちの「すれ違い」が持つ、残酷なまでの美しさです。読者は、忘れがたい他者との関わりの中で生まれる、淋しさと慈しみが混ざり合った感情の深淵を覗き込むことになるでしょう。読み終えた後、耳の奥に響き続けるその音は、あなたの孤独を優しく肯定し、見慣れた日常の風景を全く別の色彩に塗り替えてしまうはずです。