あらすじ
USO大佐ロナルド・テケナーは奴隷に身をやつし、超重族が支配する火星に潜入していた。機を見て衛星タイタンにたてこもるレティクロンに接近し、最終的に排除しようというのだ。しかし、些細なミスをきっかけに、戦士としてアリーナで戦うはめになってしまう。一方、旧ミュータントを体内に宿したマルティ・ミュータント三名はアトランの命をうけ、テケナーと合流するためスプリンガーの客船で火星に降りたつが...。
ISBN: 9784150116873ASIN: 4150116873
作品考察・見どころ
H・G・エーヴェルスが描く本作の真髄は、銀河規模の叙事詩の中に、肉体のぶつかり合いという極めて原始的な生の闘争を鮮烈に刻み込んだ点にあります。USO大佐というエリートが奴隷へと堕ち、砂塵舞うアリーナで死線を超える姿は、剥き出しの人間賛歌そのものです。単なる冒険譚に留まらず、支配者の傲慢と抑圧された者の矜持が交錯する、濃密なドラマツルギーが読む者の魂を揺さぶります。 さらに、旧ミュータントの意識を宿したマルチ・ミュータントたちの存在が、物語に重層的な深みを与えています。彼らが抱える異能と葛藤は、孤独な潜入任務に挑むテケナーの運命と共鳴し、SFの枠を超えた存在論的な問いを投げかけます。高度なテクノロジーが支配する未来において、最後に問われるのは個の意志であるという、エーヴェルスの一貫した哲学が結晶化した傑作と言えるでしょう。