綿矢りさが描くのは、世間の「普通」という枠組みから軽やかに、かつ鮮烈に逸脱する魂の肖像です。主人公・海松子の抱える「恋愛感情の不在」は、決して欠落ではなく、彼女という個体が放つ固有の色彩そのもの。鋭敏すぎる感性が捉える独創的な世界観は、読者に既存の価値観を疑わせるほどの強烈なエネルギーに満ちています。
言葉の端々に宿るユーモアと毒、そして他者とのズレを愛おしむような筆致は、まさに綿矢文学の真骨頂です。自己と他者の境界線で揺れ動く彼女の葛藤は、孤独でありながらもどこか誇り高く、読後には自分自身の内側に眠る「名前のない感情」を肯定したくなるはず。こじらせた先にしか見えない景色を、ぜひ全身で体感してください。