パトリシア・コーンウェルの筆致は、二十六作目にして円熟の極みに達しています。科学捜査の細部を冷徹に描写しながらも、ケイ・スカーペッタが抱える孤独と正義への渇望を浮き彫りにする文学的深みは圧巻です。現代社会に渦巻く形なき「憤怒」という病理を、検屍官の視点から解剖する鮮やかな手腕に、読者は魂を揺さぶられるでしょう。
本作の真骨頂は、進化し続けるテクノロジーと人間の不変の情念が交錯する描写にあります。死者の声なき叫びを翻訳するスカーペッタの静かな独白は、もはや哲学の域に達しています。シリーズの伝統を継承しつつも、常に最新の「闇」を暴き出す著者の執念が、知的な刺激と圧倒的な没入感をもたらしてくれる至高の傑作です。