あらすじ
新進作家の響生は、先行する天才戯曲家、榛原の作風の呪縛から逃れようと足掻いていたある日、路上で歌うひとりの青年の声に惹かれ立ち止まった。戯れに手先の榛原の戯曲の一節を演じさせて、響生は衝撃を受ける。独特の眼差しを持つその若者のなかに、魔的なまでの役者の才能を感じ取ったからだ。それから二年、響生は東京の小劇場の舞台の上に再び「彼」を見いだすが...。衝撃の最新作。
ISBN: 4086146177ASIN: 4086146177
作品考察・見どころ
桑原水菜が描くのは、表現という名の深淵に足を踏み入れた者たちの、魂を削り合うような相克です。先達の巨大な影に怯える作家・響生が直面するのは、模倣と独創の狭間にある地獄に他なりません。著者の筆致は、美しくも残酷な芸術への執着を、読者の肺腑を突くような烈烈たる言葉で紡ぎ出しています。 物語の核となるのは、若き役者が放つ「魔的な才能」という名の呪縛です。舞台という虚構の中で、肉体と精神が極限まで変容していく過程は、まさに文学的な法悦と言えるでしょう。書き手と演じ手、その両者が芸術という逃れられぬ神紋を刻まれ、運命的に交錯する瞬間のあまりに鋭利な輝きに、私たちはただ圧倒されるばかりです。