あらすじ
オーギュスト役の最終選考『メディウサ』を演じる条件として榛原はケイに自らのハミル像を作り出すことを命じた。ワタルのハミルを超えることができるのか―焦りとプレッシャーに押しつぶされそうなケイ。響生はかつてハミルを演じ、榛原との確執で舞台を遠ざかった藤崎晃一に会うことを提案する。ケイと藤崎の出会いは何を生み出すのか?榛原と彼の最後の稽古に秘められたものとは。
ISBN: 4086005964ASIN: 4086005964
作品考察・見どころ
桑原水菜が描く本作は、表現者が抱く創造の狂気をえぐり出す白熱の演劇ロマンです。第十一章では、演技という毒が少年の魂を侵食する過程が鮮烈に綴られます。かつての天才・藤崎との対峙は、単なる技術の継承ではありません。それは表現者として生きるための呪いを受け継ぎ、自己を破壊して再構築する壮絶な儀式そのものです。 榛原が求める究極のハミル像。そこにある狂気的なまでの完璧主義は、読者の心を震わせる冷徹な情熱を放っています。内なるメデュウサを飼い慣らそうと、魂を削りながら高みを目指すケイの姿は、芸術という魔物に取り憑かれた者の孤独と悦楽を象徴しています。極限まで研ぎ澄まされた心理描写が、読み手の感性を激しく揺さぶる名篇です。