本作は単なるガイド本を超え、京都の深淵を食から覗く極上のエッセイです。著者の柏井壽氏は、観光的な華やかさではなく、市民が日常で慈しむ素顔の京都を鮮やかに描き出します。一杯のうどんの背後にある歴史や店主の矜持を綴る筆致は、読者の五感を刺激し、まるでその場の湯気や香りに包まれるような錯覚を抱かせます。
そこにあるのは、効率に流されないしあわせの原型です。路地裏の営みを慈しむ著者の審美眼は、食欲を超えた精神的な充足感を私たちに与えてくれます。失われつつある日本の温かな風景を味わい尽くすための羅針盤であり、読後は必ずや、真の豊かさを求めて京都の暖簾をくぐりたくなるはずです。