小川糸
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小川糸の筆致は、日常の瞬間に宿る光を掬い上げる祈りのようです。食や季節への慈しみを通して綴られる言葉は、読者の心を優しく解きほぐします。喪失さえも、熟成される栗のように人生の滋味へと昇華させる著者の眼差しには、生命への圧倒的な肯定感が満ちています。 文字から漂う湯気や暮らしの息遣いは、効率優先の時代に立ち止まる勇気を与えてくれます。読み終えた後、自分のために茶を淹れたくなるような魂の栄養が詰まった一冊です。本作は、孤独を寂しさではなく至福の贅沢へと変える、静かな魔法を秘めています。