あらすじ
ベストセラー『教場』『傍聞き』の短篇の名手が贈る、心震える9つのミステリ短篇。 人を救うことはできるのか—— 和佐見消防署消防官たちの9つの物語。 雨の翌日、消防司令の今垣は川べりを歩く女性と出会う(「石を拾う女」)。 新米の土屋と大杉は「無敗コンビ」だった(「白雲の敗北」)。 女性レスキュー隊員の志賀野が休暇中に火事を発見(「反省室」)。 西部分署副所長の吉国は殉職した息子のお別れ会で思い出を語るが……(「逆縁の午後」)ほか5篇 巧みな手法と豊かな蘊蓄とが、複雑な人間関係と心理の綾をより鮮やかに浮かび上がらせ、 ミステリを超えた味わいを生み出す。 ※この電子書籍は2019年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
ISBN: 9784163910345ASIN: 4163910344
作品考察・見どころ
長岡弘樹が描くのは、単なる救命の英雄譚ではありません。極限状態に置かれた消防士たちの葛藤と、その裏側に潜む人間の業を抉り出す鋭い筆致こそが本作の真髄です。短編の名手らしく、日常の些細な違和感から凄絶な真実を導き出す構成は、まさに円熟の至芸と言えるでしょう。 生と死の境界に立つ者の誇りと、職務の重圧に囚われた個人の孤独。一瞬の判断が運命を分かつ現場の緊張感を、冷徹かつ叙情的な文体が見事に複写しています。魂を削るような心理描写は読者の心に消えない火種を投げかけ、ミステリの枠を超えた深い人間洞察に満ちた傑作です。