あらすじ
アガスティアリゾート―マイン社が運営するサンフランシスコ沖合の特別提携地区。そこでは住民が自らの個人情報―視覚や聴覚、位置情報などのすべて―への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証されている。しかし、大多数の個人情報が自発的に共有化された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。リゾート内で幻覚に悩む若い夫婦、潜在的犯罪性向により強制退去させられる男、都市へのテロルを試みる日本人留学生―SF新世代を担う俊英が、圧倒的リアルさで抉り出した6つの物語。そして高度情報管理社会に現れる“永遠の静寂”とは。第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
ISBN: 9784152095770ASIN: 4152095776
作品考察・見どころ
小川哲の原点である本作は、情報を対価に幸福を享受する管理社会を、冷徹かつ叙情的に解剖した傑作です。利便性の代償として内面すら共有財産と化す世界を、著者は圧倒的な解像度で描き出します。管理されることの甘美な誘惑に潜む静かな暴力性は、現代を生きる私たちの倫理観を激しく揺さぶるでしょう。 全六篇が浮き彫りにするのは、数値化不能な魂の孤独です。情報の喧騒の中で真の静寂を求めて足掻く人々の姿は、あまりに人間臭く、切実です。SFの意匠を借りて人間の尊厳を問う深遠な文学的体験。利便性の果てに失うものは何か、その真理に迫る著者の鋭い眼差しに戦慄を禁じ得ません。