あらすじ
京都に生まれ育った奥沢家の三姉妹。長女の綾香はのんびり屋だが、結婚に焦りを感じるお年頃。負けず嫌いの次女、羽依は、入社したばかりの会社で恋愛ざたといけず撃退に忙しい。そして大学院に通う三女の凜は、家族には内緒で新天地を夢見ていた。春の柔らかな空、祇園祭の宵、大文字焼きの経の声、紅葉の山々、夜の嵐山に降る雪。三姉妹の揺れる思いを、京の四季が包みこむ、愛おしい物語。
ISBN: 9784101266534ASIN: 4101266530
作品考察・見どころ
綿矢りさが本作で描くのは、観光客の目には映らない、京都に生きる女性たちの生の震えです。三姉妹が抱える三者三様の焦燥や欲望は、雅やかな四季の情景と溶け合い、毒気と慈しみが同居する独自の筆致で鮮烈に描き出されます。古都の静謐さと、その内側に渦巻く人間臭い感情が共鳴する瞬間、物語は単なる風土記を超え、普遍的な自立の物語へと昇華されます。 特筆すべきは、家族という近すぎる距離感ゆえの残酷さと、それでも手放せない絆の描き方です。伝統という手のひらの中の安らぎと、そこから零れ落ちてでも新天地を望む切実な願い。彼女たちが一歩を踏み出す瞬間の輝きは、読者の心に深い余韻を残します。この本を閉じれば、慣れ親しんだ京都の景色は、以前とは全く異なる色彩を帯びて目に映るはずです。