綿矢りさが本作で描くのは、観光客の目には映らない、京都に生きる女性たちの生の震えです。三姉妹が抱える三者三様の焦燥や欲望は、雅やかな四季の情景と溶け合い、毒気と慈しみが同居する独自の筆致で鮮烈に描き出されます。古都の静謐さと、その内側に渦巻く人間臭い感情が共鳴する瞬間、物語は単なる風土記を超え、普遍的な自立の物語へと昇華されます。
特筆すべきは、家族という近すぎる距離感ゆえの残酷さと、それでも手放せない絆の描き方です。伝統という手のひらの中の安らぎと、そこから零れ落ちてでも新天地を望む切実な願い。彼女たちが一歩を踏み出す瞬間の輝きは、読者の心に深い余韻を残します。この本を閉じれば、慣れ親しんだ京都の景色は、以前とは全く異なる色彩を帯びて目に映るはずです。