泉ゆたかが描く本シリーズの真髄は、運命に抗う人間の「生」への執着を慈しみ深く見つめる点にあります。本作では疫病という抗い難い厄災を通じて、断ち切るべき腐れ縁と、守り抜くべき魂の絆がより鮮明に浮き彫りにされます。死と隣り合わせの極限状態だからこそ輝く、名もなき人々の無垢な献身が、読者の胸を熱く焦がすことでしょう。
特筆すべきは、主人公・糸の心情に芽生える微かな恋の予感です。他者の縁を切る生業にある彼女が、己の心に灯った光に戸惑う姿は、一輪の希望のように美しく響きます。絶望の淵で人は誰と手を携えるのか。文学的な情緒に満ちた筆致が、現代を生きる私たちの孤独に寄り添い、確かな救いを与えてくれる傑作です。