現役医師の南杏子氏が放つ本作の真骨頂は、加齢という抗えない喪失を「生を深める過程」へと昇華させる筆致にあります。身体の衰えにより社会から隔絶されていく孤独を、著者は医師ならではの温厚な眼差しで掬い取ります。老いゆえの矜持と戸惑いを描く描写は、誰もが避けて通れない未来への切実な道標となるでしょう。
特筆すべきは、院長が詠む「短歌」という文学的処方箋です。科学的治療を超え、言葉の調べで心の綻びを縫い合わせるプロセスは、文芸が持つ癒やしの真髄。失われた音の代わりに人生の豊かな響きを聴き取ろうとする再生の物語は、読者に「良く生きる」ことへの希望を強烈に突きつけてきます。