戦後の不穏な空気が漂う街を舞台に、逃亡者の孤独と焦燥を鮮烈に描き出した逸品です。デレク・ファーが見せる追い詰められた人間の剥き出しの感情と、影を多用したノワール調の演出が、逃げ場のない絶望感を際立たせます。一瞬の静寂さえも緊張感へと変える緻密なカメラワークは、観る者を物語の深淵へと引きずり込む力を持っています。
本作の真髄は、スリラーの枠を超えて個人の尊厳と救済を問う点にあります。冷徹な社会に差す光のような人間性の回復を、ジョーン・ホプキンスとの共演が見事に体現しています。運命に抗い、真実を求めて足掻く者の姿を、抑制の効いた演技で描いた本作は、時代を超えて観客の魂を揺さぶり続けることでしょう。