あらすじ
1995年。とある出版社の営業部に勤めていた真面目で風変わりな青年・馬締は、その独特の言葉のセンスを買われて辞書編集部に異動し、定年間近のベテラン編集者・荒木の指導の下、新しい辞書の編纂作業に取り組むことに。一つ一つの言葉にぴたりと合う絶妙の定義をひねり出す一方で、馬締は、下宿先で出会って一目惚れした美しい女性の香具矢に、自分の胸の内をなかなか伝えることができず、苦悩と焦燥の色を深めていく。
作品考察・見どころ
言葉という広大な海を渡るため、一艘の舟を編み上げる。本作が描くのは、辞書編纂という地味で果てしない作業に人生を捧げる人々の、狂おしいほどに純粋な情熱です。主演の松田龍平が見せる、不器用ながらも一歩ずつ言葉の核心へ歩み寄る静かな演技は、効率性が重視される現代において「時間をかけることの圧倒的な豊かさ」を私たちに再認識させてくれます。
三浦しをんによる原作の緻密な心理描写を、石井裕也監督は「紙の手触り」や「めくる音」といった、実体を持つ映像表現へと見事に昇華させました。活字の海を漂う孤独な魂が、他者と繋がるための言葉を見つけ出していく過程は、観る者の心を震わせる冒険譚そのものです。宮﨑あおいらの瑞々しい存在感も相まって、文字の羅列の向こう側にある人間の美しさを鮮烈に描き出した傑作といえるでしょう。
映画化された原作や関連書籍を読んで、映像との違いや独自の世界観を楽しみましょう。