あらすじ
傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だったーー。
2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……
犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!
ISBN: 9784163912042ASIN: 4163912045
作品考察・見どころ
馳星周が描いてきた人間の業への冷徹な眼差しが、一匹の犬を媒介に、比類なき救済の物語へと昇華されています。犬の多聞は、震災後の混迷を生きる人々の孤独を映し出す静謐な鏡です。言葉を持たない彼が寄り添うことで、傷ついた魂が剥き出しになり、生への渇望が浮かび上がる構成は、ノワール作家としての真骨頂と言えるでしょう。 本書の本質は、動物との絆を越えた魂の彷徨にあります。過酷な運命を背負い、目的地を目指す犬の揺るぎない意志は、打算にまみれた人間社会の対極にある聖性すら感じさせます。絶望の淵でしか見えない至高の光を、著者はこの旅路を通して鮮烈に描き切りました。読後の震えるような感動は、貴方の人生観を根底から揺さぶるはずです。



