ハプスブルク帝国終焉の予感漂うウィーンを舞台に、名門ホテル「ザッハー」という小宇宙から激動の時代を切り取る手腕が見事です。格調高い美術と衣装に彩られた映像美は圧巻で、華やかな社交界の裏側に潜む退廃的な美しさと、崩れゆく旧世界の哀愁を鮮烈に描き出しています。
特筆すべきは、伝統を守り抜こうとする女主人アンナ・ザッハーを演じるウルスラ・シュトラウスの圧倒的な実在感です。身分制度や性別の壁に抗い、誇り高く生きる彼女の姿は、単なる歴史劇を超えた普遍的な輝きを放ちます。伝統と変革が激突する火花の中に、人間の欲望と高潔さが凝縮された、まさに五感を刺激する濃密な人間ドラマの傑作です。