本作は、冷徹な現実が交錯する八〇年代スペインを舞台に、善悪の境界線を突きつける重厚な人間ドラマです。テロの脅威が渦巻く極限状態で、一人の男が抱える秘密と罪悪感が静かに、しかし力強く描かれています。抑圧された空気の中で信念が揺らぎ、愛が歪んでいく過程を、映像ならではの陰影深い演出で表現しており、観る者の倫理観を激しく揺さぶります。
主演のキム・グティエレスが見せる、苦悩を湛えた眼差しは、静寂さえも雄弁な物語へと変えてしまいます。不信が支配する時代の閉塞感を、美しい映像美との対比で描き出す手腕は見事。逃れられない過去が現在を侵食していく様を、単なる犯罪劇に留めず、魂の救済を問う普遍的な悲劇へと昇華させた、胸を締め付ける傑作です。