1970年代のメキシコシティを舞台にした本作の真髄は、腐敗した社会に抗う「普通の男」の矜持にあります。ルイス・ヘラルド・メンデス演じる主人公が放つ、悲哀とユーモアが混ざり合った人間味は、完璧なヒーローとは正反対の泥臭い美しさを体現しています。混沌とした時代の空気を切り取ったスタイリッシュな映像美が、孤独な戦いに挑む男の背中を鮮烈に際立たせています。
不条理な現実に風穴を開けようとする情熱的なメッセージは、現代を生きる私たちの胸を熱く打ちます。緻密な時代考証に基づいた美術や、実力派俳優たちの重厚な演技が、単なる犯罪ドラマを超えた濃密な人間讃歌を構築しています。自らの意志で正義を選択する勇気の尊さを、これほどまでスリリングかつ情緒的に描き出した傑作は他にありません。