本作の真の魅力は、男性妊娠という設定を鏡とし、現代社会の固定観念を痛烈に炙り出す点にあります。斎藤工が、自負に満ちたエリートから当事者としての弱さを抱える人間へと変わる様を、圧倒的な身体的説得力で演じきった姿は圧巻です。自らの身体に起きる変化を通じて、無自覚な特権や偏見に気づかされる過程は、観る者の倫理観を激しく揺さぶります。
上野樹里演じるパートナーとの関係も、従来の性役割を鮮やかに反転させ、個人の生き方を問い直す重要な鍵です。他者の痛みを想像する尊さを、洗練された映像美で描き切った本作は、多様性の時代に新たな視点をもたらす人間ドラマの傑作です。既存の枠組みに違和感を抱くすべての人へ、深い連帯感と勇気を贈る一作と言えるでしょう。