1960年代のザグレブを舞台にした本作は、色鮮やかなレトロ・エステティックと軽妙なリズムが織りなす、極上のノスタルジック・ドラマです。ジヴコ・アノチッチが見せる繊細な演技は、中年の悲哀と滑稽さを絶妙なバランスで体現し、観る者の心に深く染み渡ります。時代の移り変わりに翻弄されながらも、ささやかな日常に光を見出そうとする人間の営みが、美しい映像とともに詩的に描き出されています。
作品の核にあるのは、過去への敬意と未来への不安が共存する普遍的な人間賛歌です。ミラ・ボハネツら実力派キャストが醸し出す親密な空気感は圧巻で、ウィットに富んだ対話の中に人生の本質を突く鋭いメッセージが隠されています。今を生きる私たちに、本当の意味での「心の豊かさ」を問いかける、情熱と知性に満ちた傑作です。