奈良・飛鳥の地に宿る悠久の記憶と、人間の情念が溶け合う圧倒的な映像詩です。河瀨直美監督は、風や光といった自然の揺らぎを意志ある生命体として捉え、古代から続く万葉の調べを現代の愛憎へと共鳴させました。目に見えない魂の循環を、色彩と光の重なりだけで語りかける演出は、観る者の深層心理を静かに揺さぶります。
樹木希林や麿赤兒が放つ土着的な重厚感は、移ろいやすい愛に翻弄される若者たちの生を神話的な次元へと押し上げています。万葉集に詠まれた「はねず色」が象徴する、儚くも強烈な生命の輝き。歴史の堆積の上に立つ私たちの存在を、これほどまでに官能的かつ神聖に祝福した作品は他にありません。