本作は「ヒーロー」という概念を根底から覆す、極めて野心的なスリラーです。タイトルから想起される明快な正義とは裏腹に、描かれるのは権力という魔力に取り憑かれた人間の精神的な崩壊と、その周辺に渦巻く底知れぬ狂気です。映像表現においても、光と影のコントラストを冷徹に使い分けることで、観る者の倫理観を静かに、しかし確実に揺さぶり続ける演出が冴え渡っています。
特筆すべきは、沈黙が雄弁に物語る緊張感の構築です。説明を排した削ぎ落とされた演出が、観客の想像力を刺激し、目に見えない脅威をより巨大なものへと肥大化させていきます。絶対的な力を持つ者が抱く孤独と猜疑心が、これほどまでに残酷かつ美しく描かれた例は稀でしょう。既存のジャンル映画の枠を超え、人間の内面に潜む闇を鮮烈にえぐり出した、魂を震わせる傑作です。