この作品の真髄は、視覚以上に「聴覚」へ訴える圧倒的な没入感にあります。記憶の残滓を録音という手法で掬い上げる演出は、観客の皮膚感覚を鋭敏に研ぎ澄ませます。主人公xiangyuの瑞々しい存在感と、重鎮・鈴木慶一が放つ深い哀愁が、スクリーンの中に不思議な熱量を帯びた空白を見事に生み出しています。
提示されるのは、現代が見落としがちな「無用の美」への讃歌です。日常の断片を音として定着させる行為は、喪失を肯定する祈りのようにも響きます。形のない音に魂の震えを結実させた本作は、鑑賞後も静かな余韻を心に溶け残らせる、極上の感覚体験となるはずです。